柔術
武士が素手の時に用いる、剣の裏技
柔術の概略
柔術は、武士が剣を抜かない時に用いる素手の技術です。敵の力を利用して関節を攻め、当て身を打ち据え、投げ放つ。技量が勝っていれば、相手を傷つけることなく制御して場を収めることができる、平和を体現する技術でもあります。
素手で敵を制するというイメージが先行して、剣とは何の関係もない独立した技術であると思われがちですが、身体の使い方や足捌きなどは剣術のそれと同じであるため、柔術を理解するためには、剣術への理解を深めることが不可欠となります。
特に、煉誠館に伝わる柔術は、会津藩・御式内を母胎とする総合武術「大東流」の技を主軸としているため、「柔術は素手の技にあらず、剣を持たない剣術であり、剣の裏技である」という口伝を忘れることなく研鑽を積んでおります。
柔術において最も大切なことは、敵を制御して攻め入らせないようにする、ということです。敵の中心を感じ取り、力を出せないような状態に導いた後に、技に入るのです。
普段の稽古で学ぶ型は、関節の極め方、投げ方などを中心に編まれております。そのため、関節技や投げ技が柔術だと考えている人が多いのですが、それらは枝葉の部分であり、本質ではありません。技に入る前に敵を制御して力を削いでおかなければ、逆に抵抗されて反撃を受けてしまうでしょう。
敵をしっかりと制御して自由を奪うからこそ技が掛かるのであり、その制御部の理論こそが、柔術の枢要です。
型で学んだ技を実用に耐えうる技に昇華するためには、この制御法(崩し)を、よくよく研究しなくてはなりません。例を挙げるならば、タイミングを計らって押し引きをする、当て身で意識を弾く、力貫で敵の自由を奪い重心を狂わせる、などの方法論がありますが、煉誠館として最重視するのは、「力貫」での崩しです。
即効性のある護身術としては当て身が有用で、敵が抵抗した際には、これを用いて敵の意識を逸らします。初心の段階では、力貫の術を駆使することは非常に困難でありますから、ある程度の術が身につくまでは、敵が崩れるまで繰り返し当て身を打ち据えて、力貫の代替とするのです。
しかしながら、いつまでも当て身に頼るのは良くありません。当て身は、効果を求めれば求めるほど敵を傷つけてしまい、場合によっては死に至らしめる危険性もあります。柔術の理想型は、敵も自分も傷つかずに場を収めることであります。そのために、煉誠館では、力貫による崩しに柔術の精髄を求めるのです。
初心の段階では、敵を徹底的に痛めつけて制圧する狂気の技術であったものが、やがて、自他を傷つけない平和の境地へと昇華します。その変転の中にこそ、精神的武士たる武術家が修むるべき、柔術の崇高な理があります。
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柔術の稽古風景
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四方投げ
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あくまでも剣であり、剣の利で動く
柔術教伝内容
手解き
- 基礎の体捌き
- 基礎の当身
- 手解きの柔術 三本
- 股割り
初伝儀
- 【柔術本地之伝】
- 初伝技法
- 鞘之内向留 三本
- 【教外別伝】
- 護身試合口 五本
中伝儀
- 【柔術本地之伝】
- 中伝技法
- 鞘之内向留 五本
- 【教外別伝】
- 護身試合口 九本
- 当身十基
奥伝儀
- 【柔術本地之伝】
- 奥伝技法
- 鞘之内向留 三本
※口伝、教外別伝、秘伝あり